各分野で活躍されている静岡県立袋井高等学校の卒業生の先輩から現役生へのメッセージです。
第1回は、足立吉隆様(1期生)にお願いいたしました。足立様ありがとうございました。
今後、様々な分野で活躍されている先輩からのメッセージを掲載していく予定です。
是非、一人でも多くの現役生に「先輩たちからの熱いメッセージ」を見てもらいたいと思います。

第1回
足立吉隆 様(1961年1月3日生)
職位:教授
学位:博士(工学)
所属:機械情報システム研究 - 足立 吉隆 教授 - 機械工学専攻
芝浦工業大学大学院 理工学研究科・修士課程 システム理工学専攻(兼担)
芝浦工業大学大学院 理工学研究科・博士課程 機能制御システム専攻(兼担)

1. プロフィール
1961年1月 静岡県袋井市国本にて生まれる
1979年3月 静岡県立袋井高等学校卒業(第一期生)
1983年3月 東京電機大学工学部卒業
1983年4月 鈴木自動車工業(現スズキ)株式会社入社
        開発部,(財)電子化機械技術研究所出向などを経て1993年より横浜研究所.
        東京慈恵会医科大学訪問研究員(1997-2001年)
2003年3月 東京工業大学より博士(工学)の学位を取得
2005年4月 芝浦工業大学に助教授として着任
2009年4月 教授に昇格
ブログ:顧問のつぶやき「スキューバダイビングを通して心身の鍛錬」


2. 高校時代の思い出
いろいろな出来事がありました.とりあえず書き並べてみることにします.
 (1) 高校の入学試験を袋井商業高等学校でやったこと.
 (2) 袋井市民体育館で行われた開校入学式にテレビ局がたくさん来たこと.
 (3) 私がチラッとテレビに映ったこと.
 (4) 4月になっても校舎が完成していなくて授業を袋井南中学校でやったこと.
 (5) 職員室が校庭の隅に造られたプレハブの建物だったこと.
 (6) 袋井駅から茶畑の中を通って学校に通ったこと.
 (7) 茶畑の中に電車の定期券を落としたときに学校に届いたこと.
 (8) 雨が降ると正門前の坂道がぬかるんで歩くのに苦労したこと.
 (9) 放課後にグランドの石拾いや整備を毎日やったこと.
 (10) 学校の周囲に槇の木をたくさん植えたこと.
 (11) 1学期が終わる頃に最初の校舎が完成して,南中学校から引っ越しをしたこと.
 (12) 夏山教室で立山を縦走登山したこと.
 (13) 冬のスキー教室で極楽坂スキー場に行ったこと.
 (14) 東京の帝国劇場(だったかな?)で観劇をしたこと.
 (15) 「フジヤマのトビウオ」こと古橋広之進氏による水泳教室があったこと.
 (16) 杉山監督率いるヤマハフットボールクラブの選手によるサッカー教室があったこと.
 (17) 磐田農業高等学校で茶摘みや茶もみの体験学習をやったこと.
 (18) 隣のクラスは体験学習で豚の去勢をやったと聞いたこと.
 (19) 初めての体育大会ではほとんどの生徒が選手や計測でグランドにいたので,応援席がガラガラだったこと.
 (20) その体育大会の応援合戦で女装をさせられたこと.
 (21) 2年生の体育大会の部対抗リレーで美術部が1位になり,2位になった野球部監督の有川先生が激怒したこと.
 (22) 体育大会で謹慎ブリッジというものがあったこと.
 (23) 初めての夏の甲子園予選では応援団のメンバーとして太鼓を叩いたこと.
 (24) スクイズ失敗でがっかりしたこと.
 (25) 2年目の夏の甲子園予選では初戦で優勝候補の修善寺工業高等学校を撃破したこと.
 (26) ナイター設備に灯がともった草薙球場の1塁側スタンドはお祭り騒ぎだったこと.
 (27) 2回戦にも勝った時は本当に甲子園に行けるかもしれないと思ったこと.
 (28) 3回戦はノーヒットノーランで負けて現実は甘くないと思ったこと.
 (29) その試合は1番の岩崎君がフォアボールで出塁しなければ完全試合だったこと.
 (30) スポーツテストで1級を取れなかったこと.
 (31) スポーツテストのボール投げで野球部の岩崎君よりも遠くへ投げたこと.
 (32) 岩崎君に借りたカセットテープをまだ返していないことを今思いだしたこと.
 (33) 卓球部は廊下の片隅で練習をしたこと.
 (34) 青沼君(卓球部部長)と私(卓球部副部長,1年で辞めました)は掃除をよくサボったこと.
 (35) 青沼君が謹慎1号になったこと.
 (36) 青沼君がでる単(試験にでる英単語)を全部暗記したので驚いたこと.
 (37) 400mのトラックが整備されたとき,運動部の部員が集められ,フィールド部分に手作業で芝生を植えたこと.
 (38) 夏期講習とか称して夏休みに朝早くから学校に行ったこと.
 (39) 夏期講習の午後は部活動を必ずやらされたこと.
 (40) 法多山を回ってくるマラソン大会がきつかったこと.
 (41) 体育の授業で行うマラソン大会の練習の方がもっときつかったこと.
 (42) 帰りの電車に乗り遅れそうになると,袋井駅の駅員さんが少しだけ電車の出発を遅らせてくれたこと.
 (43) 高田君と高梨君のライブを見に掛川まで行ったこと.
 (44) 文化祭の写真展で1位になったこと.
 (45) 校舎の南側に青空剣道場ができて芥川君が一生懸命に練習していたこと.
 (46) 授業中にキジが窓ガラスを破って教室に乱入したこと.
 (47) 1か月のこづかいが3千円だったこと.
 (48) 高校時代にモテ期があったことを最近知ったこと(笑)

ここまで書いて,勉強の思い出がひとつもないことに気がつきました.そうなのです.教室で勉強をした記憶がないのです.私にとって授業の思い出は体育の思い出なのです.当時は体育の授業が週5回ありまして,有川先生(通称アリキン,野球部監督)に3年間たいへんお世話になりました.インターバルトレーニングとか,二人で1チームのリレーとか,体育の授業はひたすら広いトラックを走っていました.サッカーやバスケといった球技をやった記憶はまったくありません.とにかく走れ,走れ,走れ.本当に厳しかったです.思い出したくない思い出です.おかげで身体は丈夫になりました.


3. 後輩たちへのメッセージ
(1) 受験勉強の勧め
 大学には推薦入学で入りたいと考えている高校生は多いと思います.私は,推薦入学を勧めません.高校生だから,テレビを見たい,ゲームをやりたい,漫画を読みたい,山に行きたい,川に行きたい,様々な欲望があると思います.これらを我慢して受験勉強をする.この経験が人間形成に大いに役立つのです.自己管理能力,集中力,記憶力など,受験で身につける能力は社会で役に立つものばかりです.今,勉強しなければ,いつやるのですか?
 多くの大学には推薦入学のシステムがあります.しかし推薦入学に伴う問題が,社会で少しずつ認識されるようになってきました.就職の採用条件として,「大卒(ただし入学試験を経験していること)」という企業も現れてきました.近い将来,入学試験を経て大学に入学したことが採用条件の一つになる可能性があると思います.長い人生のほんの一瞬です.高校生は大学受験,そして受験勉強をやりましょう.


(2) 大学の選択
 25歳の自分はどのような仕事をしているのか,それを考えてください.その仕事に就くにはどの学部・学科を卒業すればいいのか調べましょう.そして,その学部・学科がどの大学にあるかを調べましょう.これが賢い大学の選び方です.
 理工系に進学を考えている諸君は,大学院進学も念頭に大学を選ぶ必要があります.どんな先生がいて何を研究しているのか調べましょう.今ではホームページが充実しているので簡単に分かるはずです.
 仕事のイメージがつかめない諸君は,お父さんやお母さん,あるいは親戚のおじさんから仕事の話を聞きましょう.近所のおじさんでもいいです.いろいろな大人に聞くのがいいです.ここでのアドバイスは,高校の先生に聞いてはいけないということです.残念ながら中学校や高校などの先生は特殊な社会に生きているので,適切なアドバイスは期待できません.


(3) 大学入学後
 私が新入生ガイダンスで必ず言うことは「自律しなさい」ということです.高校までは親や先生がすべて準備をしてくれました.大学は違います.自分の頭で考えて,自分で行動することが要求されます.待っていても誰もあなたを助けてくれません.受け身で授業を受けたり,指示されるまで行動を起こさない大学1年生を,私は高校4年生と呼んでいます.中には高校7年生で大学を卒業していく学生もいます.社会に適合できるか心配ですが,大人ですから自分の責任で何とかするしかありません.そのかわり,自分で前に進もうとする学生の背中は,いろいろな人が押してくれます.自分で頑張ると,違った世界が見えてきますよ.

(4) 大学の授業
 当然のことですが,大学の授業は甘くはありません.小学校よりも中学校,中学校よりも高校の方が勉強しましたよね?高校よりも大学の方が勉強するのは当たり前のことなのです.私の長男は現役で東京大学に合格しましたが,高校時代よりも大学入学後の方が自宅での勉強時間が長いです.
 大学では所定の単位数を修得すると卒業できます.一般には半期(15回)の授業を受けて,期末試験に合格すると2単位です.文部科学省の規定では,2単位を取得するには90時間の勉強時間が必要です.15回の授業時間が22.5時間ですから,残りの67.5時間は家庭での予習復習の時間になります.すなわち,1回の授業につき4.5時間も予習復習をしなさいということです.私の授業では山ほどの宿題を出します.これにより家庭での勉強時間を確保するわけです.一日に2科目の授業を取ると家庭での勉強時間は9時間になります.放課後にバイトをやる時間など,どこにもないのです.ちなみに文部科学省の規定は,大学生の勉強時間は一日8時間で一年中勉強をするという計算から来ています.

(5) クラブ活動の勧め
 私は体育会スキューバダイビング部の顧問をやっています.スキューバダイビングのプロの資格を持っているので,学生と一緒に海に潜ったりします.全日本スポーツダイビング室内選手権大会にも出場します.2010年度は400mフリッパー年代別で銅メダルを獲得しました.芝浦工業大学体育会スキューバダイビング部の創部は早稲田大学や慶應大学よりも古く,日本で5本の指に入る伝統があります.300人のOBから構成されたOB会があり,インストラクターの資格を持つOBが学生の指導をします.45年間,安全潜水を続けています.
 大学に入学したらクラブに入ることを勧めます.できれば伝統のある体育会系がいいでしょう.自分が第何期か分かっているクラブがいいです.ちなみに,我がスキューバダイビング部の2011年入部の1年生は45期です.このような伝統のあるクラブでは,いろいろなイベントでOBと一緒になる機会が多々あります.一言でOBと言っても,卒業したばかりのOBから還暦を過ぎたOBまで,いろいろな年代のOBがいます.このような幅広い年代の人と若いうちから交流するのが,人間形成に大いに役立つのです.我がスキューバダイビング部の部員は他の学生よりもはるかに大人です.この理由は,1年生の頃からOBと接触しているからです.クラブ活動を通して年上のOBと交流することにより,さまざまな事を勉強して下さい.


(6) 就職
 リーマンショック以降,就職氷河期が続いています.私が所属する機械制御システム学科には1学年80名ほどの学生が所属しています.これに対して求人は毎年250社〜300社ほどあります.したがって就職浪人が大量に発生するという状況に陥っていません.たぶん他の理工系大学も同じような状況と思います.複数の企業から内定をもらう学生がいます.しかし,なかなか内定をもらえない学生がいることも事実です.
 どのような学生が内定をもらえるか.それは頭の良い学生です.ここで頭の良し悪しは,テストの成績をいうのではありません.私が考える頭の良い学生とは,理解力と想像力が優れている学生のことです.他人の言うことを聞いてその内容を理解し,さらに想像力を働かせることができる学生,そんな学生を私は頭の良い学生と呼びます.
 では,それをどうやって養うのか.それは受験勉強だったり,大学の授業だったり,クラブ活動だったり,日々の生活の中で鍛えられるものなのです.受験問題を読み,それを作成した人がどのような答えを期待しているのかを想像できないと,正しい答えを書けません.大学の授業も同様に,教授が何を期待しているのかを想像できないと,正しいレポートを書けません.クラブ活動も同じです.どのような練習をするのか考えて,その練習に必要な道具をあらかじめ準備しないと,練習が始まらないのです.
 段取りという言葉があります.物事が円滑に進むように前もって手順をととのえることです.仕事のできる人は段取りが上手です.その仕事の内容を理解して,何が必要なのかを想像して,あらかじめ準備をできる人が仕事のできる人なのです.理解力と想像力がある学生は,入社してから仕事のできる人になる可能性が高いのです.企業は,そのような学生に内定を出すのです.